鍵をかけられたおばあちゃま

ある日の夕方のことです。

突然インターホンが鳴りました。

何事かと思い、出ようと思いましたが
見たら玄関からのインターホンです。

我が家はオートロックのマンションですので
通常はエントランスのインターホンがなるのですが
今回は玄関。

固まりました。

うるさくしていての苦情だろうか・・・・
いや、今日はまだ静かなほうだし、外出から帰ってきたばかり。

わたしは独身の時に一人暮らしをしていて
怖い目に遭ったことがあって、
物音など異常に怖いですし、
帰宅後の戸締りも何度も確認してしまいます。

今回はまだ主人も帰宅しておらず、
おうちには私と子どもたちだけ・・・・・・・・・

ものすごく焦りました。

のぞき穴から恐る恐る覗くと
どうもいるのはひとりの女性のようでした。

覚悟を決めてドアを開けると
「すみません、上の階のものですが
孫がカギをかけてしまっては入れなくなってしまって・・・
どちらに連絡をしたらいいのでしょうか?」
と焦ったご様子のおばあさん。

面識のあったお子さんのお宅のようで、
2歳のお孫さんをおうちで子守りながらのお留守番に来ていたとのことです。

もう18時を過ぎ、管理会社はやっていません。
時間外の連絡先に連絡を・・・
というところで、そのおばあさんは何も持っていないことに気が付きました。
傘を畳むために玄関から離れたところ、
お孫さんがカギを施錠してしまったとのことです。

うちの長女と数カ月しか変わらないお子さんですが
長女も最近鍵の開け閉めを覚えて、
カチャカチャとするので
締め出しをされたら怖いと玄関を離れて荷物の出し入れなどをするときも
必ず鍵を持って出ます。

しかし、お孫さんの子守りに来ていただけで
そこまでの成長は把握は出来ないですし、
ほんとうに「あぁあ・・・・2歳でも鍵を閉めることはできるんですね・・・」
と憔悴しきっておられて気の毒でした。

まず、お孫さんに何か危険が及ぶといけないので
玄関前に戻っていただき、
わたしは子どもたちにテレビを見せて、
「絶対に窓には近づかない、ベランダには出ないように」と言い聞かせ
ロビーにある時間外の連絡先を確認に行きました。

電話をしながら階段で玄関前まで行きますが
「混みあっており、つながりにくくなっております
またお掛け直しになるか、このままお待ちください」
のアナウンスしか流れません。

5分経ったので電話を切り、
とりあえず玄関前のおばあさまと合流して現状を伝えました。

その間も大泣きをしているお子さんの声が聞こえて、たまらなくなりました。

ご両親はお仕事に行っているとのことで
携帯も室内なので連絡が出来ません。

幸い息子さんお携帯の番号がわかるとのことでしたので
わたしの携帯からかけてみました。

おばあさまはおっとりとしていて、
焦っているようでも冷静に見えていましたが
携帯の番号が押せず
「すみません、焦ってしまって・・・」
と手が震えていました。

もう子育ても一段落して
本来ならば、自分のための時間をゆったりと過ごしていいはずのご年齢だと思います。
子守りも、自分が育てていた時代とはお勝手も違うでしょうし、
なにより自分自身が歳を重ねています。
思うように動いたりも自分が現役で育てていた頃とは違うはずです。

しかも、何より「預かっていた」子供。
本来ならば、ただただ「愛でる」だけの存在でいいはずの孫。

もうそのおばあさんの気持ちも考えると
自分の母だったら・・・・
など考えて、なんとか早くに解決したい、
早くにお孫さんとおばあちゃまを会わせてあげたいと強く思いました。

番号はわたしが聞いて、
確認の上、呼び出しました。
しかし、お仕事中の時間なのでやはり出ることはありませんでした。

ママさんもお仕事はいつ終わるかわからないとのこと。

そうして話を聞いている間も泣き声はずっと聞こえています。

おばあさんは「孫ちゃん、いいこにしててね」
と一生懸命声をかけています。

わたしにできることはあとは・・・
と携帯でこういう時にはどうするのか検索をしたら
鍵屋さんの広告がありました。

どうしよう・・・・と思っていると、
おそらく泣きすぎて、おえおえとしている音も聞こえてきました。

迷っている時間もない。

おばあさんに鍵屋さんを呼ぶ提案をしました。

すぐにお願いします、とのことでしたので
一番上のところに連絡をしました。

30分から一時間半かかります、とのことでしたので
2歳のお子さんがおうちにひとりなので出来るだけ早くお願いします、と伝えて
わたしは一度自宅へ帰りました。

子どもたちはこの間20分近く、言いつけを守り
おとなしくテレビを見ていてくれました。

お礼を伝えて、
炒めるだけの簡単なお夕食を作り、
今度は食べているように伝えて、また上の階へ行きました。

お子さんの泣き声も聞こえていたので
おそらく吐いたであろうものが詰まったりはしていないようで
少しホッとしました。

その日は雨で、日も暮れて冷えてきていたので
おばあさんに上着と
お孫さんにCDを持っていきました。

我が家の子供たちはディズニーが大好きなので
我が家にあるディズニーの音楽をとりあえず持ってきましたが
音楽をかけると聴いているようで
ひっくひっく言いながらも落ち着いてきました。

そこから30分。
おばあさんといろいろお話をしました。
他愛のない話ですが
気もまぎれたらいいかなぁと勝手に思っていました。
それはわたしがただ単に気になって離れられなかっただけなのですが。

テレビが終わる頃に一度帰宅すると
ちょうど鍵屋さんから連絡がありました。

そこで長男と次男に上の階へ行って、
鍵屋さんが来たことを伝えに行くようにお願いをし、
長女とわたしは鍵屋さんをお迎えに行きました。

今考えたら、我が家のインターホンを鳴らしてもらえば
すぐにオートロックを開けられたのに
ロビーまで行ってしまいました。

わたしもまた、気が競っていたのだなと思います。

鍵屋さんを案内して、
鍵屋さんがカギのタイプを調べて、試算しているときに
「わたしが決めて電話をしたところ。5000円~となっていて法外な料金は取られないと思いますが
すみません」とお伝えしていましたが
ふと、べらぼうな金額だったらどうしよう・・・と不安になりました。

「料金はどうなりますか?」と聞いたら
「防犯性の高い鍵ですので30000円です」と。

・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

血の気が引きました・・・・・・・・・

ちょうどその日は教育費を振り込むために下ろしていたお金があったので
いざとなったら立て替えるつもりでしたが
家計が火の車な我が家にとってはなかなか痛い出費・・・・

しかし、今回のことは他人事ではないのです。
明日はわが身の出来事です。

とにかく早くお子さんとおばあちゃまが会えたら・・・
と、ゆらゆらと動く心に
自分も汚いエゴまみれだな・・・と思っていたら、

「がんばってね!もう少しで開くよ!」
「もうすぐ会えるからね!」
「あえるよーー!」
と子どもたちがドア越しに話している声を聞いて、

「もしこれが長女だったら」

と考えたら、ぞっとして、
やはりお金はなんとかする!
今は鍵が開くことが一番!
と思えました。

無事に開いて、おばあちゃまと再会できたお子さんは
目も腫れていて、吐いたあともありましたが
きちんと言いつけを守って玄関からは離れずにいてくれたおかげで
怪我もなく、元気でした。

お会計は現金が基本、その場で支払いとのことでしたので
立て替えて帰宅しました。

約1時間半でしたが
長い長い一日のようでした。

自分も気をつけないといけない。
そう強く感じて、いい教訓になりました。